トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅電源周りを触って音楽が消えてしまった・・・(JBL 4344Mk2)

電源周りを触って音楽が消えてしまった・・・(JBL 4344Mk2)



 『カイザーさんクリニックに来てください・・・!』。


 その悲痛とも言える電話の声の主は7月にA&Vvillage誌を通じてクリニックさせて頂いた江戸川区のSさんでした。学生時代からの憧れのスピーカーであったJBL4344が、『見違えるような音楽を奏でてくれるようになった』と喜びの感想を頂いたのも長くは続かなかったようです。

 その理由は、オーディオマニアの性でしょうか、気に入った音になれば、「もっと!」、「更に!」、と欲が出るものです。実はアナログ機器関係とデジタル機器とを分離する為に、200V→100Vのステップダウントランスをもう一つ追加したところ、音楽が楽しめなくなってしまったというのです。

 電源周りを改善したはずなのに、思いとは反対になってしまった。最近こんな相談がちょくちょくあります。その原因の一端は当方にもいくらかあったかもしれません。前回クリニックに伺った時に三相交流電源の威力をまざまざと見せ付けられ、圧倒的な性能差の感想を私が述べたので、Sさんはもう一つ上をと狙ったのでしょう。

 お伺いして音を聴かせて頂きますと、各スピーカーユニットの足並みは揃わず、タイミングを崩しておりました。ステレオシステムという物は本当にデリケートです。とにかく目には何も見えませんし、どこが原因なのか自分から名乗り出て来ませんので手の打ちようがないのです。


 基礎体力を上げる処置


 先ず目をつけた場所はトランスです。その下にあてがわれていた尖った銅製のインシュレーターを外してみました。その角度は30度くらいでしょうか、必要以上に尖った物はその先端部分が鳴いて力強い低音は出ません。さりとて、最初に着いているゴム製の足ではこれまた音は軟弱です。

 想定内の事として基礎体力を上げておく為に、ネジ止め式のインシュレーターPB-FRIEND4を用意して来ております。振動の流れが良くなるように、インシュレーターの設置順を考えながら、慎重に、丁度良いトルクでもって締めます。その結果、力強さと共に安定感のある音になりました。文句無しとまでには行きませんが、音のエッジもまずまずの感じです。




 処置の第二段階はアッテネーターの再調整


 今回の音楽性が崩れた本当の原因は、各機器につながっている電源ケーブルの役割と、挿す場所の違いによるエネルギーバランスとタイミングの問題にあると診ております。とにかく機器の数が多いので、組み合わせの数たるや何百通りにもなるはずです。それを考えると宝くじに当たる確率と何ら変わらないくらい、正しい答えに遭遇する確率は低いのです。
 
 そんな事を察知したからこそ、Sさんは助けを求めて来られたのでしょう。『これを解決出来るのはカイザーさんしかいない!』と私達親子の顔が眼に浮かんだそうです。その電源周りのメインとなる作業は後回しにして、4344Uのアッテネーターの調整を先に取り直します。スピーカーの再現能力を上げてやる為です。これは陸上競技の棒高跳びのバーを上げる感覚です。

 これまた、自信が無ければ出来ないわけですが、ノーマルポジションのままですと、部屋の構造、コンポーネント機器の能力、またコンディション等の違いにより、調律が合う事は先ずありません。その事実を知らないで、いかなる場合でもフラットポジションが正しい使い方と思い込み、絶対にアッテネーターを触ろうとしない方が多いのは盲目的としか言いようがありません。これでは、天候の違いも考慮に入れず、絞りやレンズの調整をしないまま撮影するのと同じです。


 スピーカーのポジショニングの再調整


 基礎体力は上がっていますので、スピーカーの置き場所ももっと能力を引き出してやれるところに移動させる事が出来ます。6畳間しかない狭い部屋であっても、壁を取り払ったかのような広大な音場を手に入れる事が可能なのです。

 もうワンランク高いオーディオの醍醐味を味わって頂く為に、気品や品格まで再現出来るレベルまで引き上げた調整でしたので、主のSさんはその変身ぶりについて戸惑いを隠しきれないようです。カーテンで隠せば、誰もJBLの4344Uの音とは気がつかないでしょう。


 本日の真打AC-Music Conductorの登場


 機材の数たるや10を越えるほどですが、そこに繋がれているケーブルの種類もグレードも本当にまちまちです。それだけにコンポーネントの統率をとるのは大変難しいのです。これを解決するには、この最近開発したばかりのコントロールアンプ専用の電源ケーブルの力に頼るしかありません。今日は最初からその方法で答えを出すと決めて来ましたので、迷わずその説明をさせて頂きます。このケーブルは値段が値段なので、音も聴いて頂かない段階で口を開ければ尻込みされそうですから、先ずはご体験頂くことから始めます。

 この「AC-Music Conductor」は強い影響力で全ての機器を統率してしまいます。一瞬何が起こったのか?と思うほど、繋いだ途端に音楽はバラバラになり、ぐしゃぐしゃに崩れてしまいます。30分ほどこの不快な音は続きます。事前の説明無くしては、このケーブルの音を受け入れられる人は一人もいないでしょう。しかし、30分を境に潮目が変わり、今まで聴いた事の無い一糸乱れぬ足並みの揃った音楽が目の前に現われるのです。この「AC-Music Conductor」の事については別の機会に詳しく説明させて頂きます。


 ナイアガラJr.Uの導入


 2台目のステップダウントランスを入れた効果を生かす為にも、更に先のタップにエネルギーを萎えさせないで送り込む為にも、その前段に「ナイアガラJr.U」を仕込むのがチョイスとして奨められるべきものです。

 壁には何本もの余ったACケーブルが掛けられております。トランスからJr.Uへの引き込み用として能力の低いケーブルを敢えて採用します。その先のケーブルの能力差があまり出ないために採る処置です。『このケーブルを使うとは意外でした』とビックリされるSさん。最高得点こそ低くなっていますが、チームワークの良さでトータル的には高い能力を引き出せるのです。


 一休み


 『凄くきれいな音になりましたですね』。『今まで出ていなかった音が沢山ありますので、この音で大いに満足なのですが、ギターの元気の良さが少し減ったのだけが残念です』。この言葉に対しては、信号系のケーブルを交換すれば一気に解決するのは分かっているのですが、今日のところは電源関係だけで解決を図りたい為に、もう一工夫、知恵を絞らなければなりません。

 夜も7時を過ぎたので、一息入れる為にも腹ごしらえした方が良さそうです。息子に「飯を食べに出よう」と誘います。その間に強力なエージング用の曲をリピート状態にして、1時間ほど放置しておきます。その途中の段階でいくら調整しても音がドンドン変わって行くので実際のところ意味が無いのです。

 ファミレスは日曜日の為かどこも満員です。仕方なく吉野家に入りました。「どうする?、アッテネーターの調整で解決を図るか?」。『いや、それは駄目だね!』。『あれを崩して、Sさんの好む音を出すのは簡単だけど、もう一ランク上の音を理解してもらう為にも、このハードルはどうしても越えて貰わなければならない』と譲りません。「そうは言うけど、その方法だと予算が跳ね上がるだろう?」。『そこを何とかしてみる』。「じゃあ、そろそろ戻るか!?・・・」。


 最後はSさん恵比須顔に


 帰って見ると随分音が向上しておりました。『今までを相当上回るこの音で申し分ないのですが、前回有った中音部分の音楽の勢いがやはり欲しいです!』と切に訴えるのです。『スピーカーの足場をガッチリと決めさえすれば、このままの状態で希望とする音のはるか上の音が出て、本当の意味での正しいクリニックと理解して頂けるはずです』と言って、4344Uの専用スタンドのオーダーメードを強く勧めるのです。

 『DAコンバーターからプリに繋がっているア○○リ○○のXLRタイプのケーブルを、25,000円のミュージックスピリットのピンケーブルに替えたら一発で解決するんだけど・・・』と、答えをつぶやきます。息子はどうしても気が乗らないようです。今日の時点ではこれ以上予算を使わせたくないのが本音なんでしょう。それよりもやはり、スピーカーの足場を先にやって欲しいみたいです。

 そこへ私が間に入るように、「何はともあれ、ミュージックスピリットのケーブルを聴いて頂きましょうか!?」。『何だ、この音は!』。『こりゃ凄いわ!!』。音楽に魂が入ったみたいな違いとなって、4344Uがまるっきり変わりました。『凄いですね、このケーブル!』。

 聴くだけはタダですから、もっと凄いローゼンクランツの70,000円のPIN-RGB2を聴いてみて下さい。さりげなく、小声で「如何でしょう?!」と訊ねます。『いいですねぇ、さらに、熱い音になったですね!』。『申し分ないですよ!』。これにはSさんいっぺんに惚れこんだようです。ものの見事に、ハマッタようです、まさに瞬間買いでした。

       『これで行きます』。

       『当分この音で行きます』。

       『これを売って下さい』。





 3回目の訪問


 「スピーカーの足場の強化を図らない限り銭をどぶに捨てる事になりますよ!」。そんな苦言話が前回の2度目のクリニック訪問によって明確になった結論でした。今世間で話題の耐震構造問題と似ています。振動の問題に限らず何事も基礎をおろそかにするとせっかくの努力も実りに繋がりません。

 足場がシッカリしていないとプラス作用よりデメリット部分の方が目立つようになるので、経験の浅い人達にとっては内部にある真の現象にまで目が届かず、正しい判断が出来なくなるのです。何度も申し上げるようですが、その道何十年のベテランでさえも髄や核まで見通す事は難しいのです。


 JBL43シリーズ/スピーカースタンド誕生のきっかけ


 その数日後でしたでしょうか、『4344Mk2のスピーカー専用台を作るとどれ位の値段になりますか?』と電話がありました。

 「妥協のない本格的な物を作るとなると30万ぐらいはみて欲しいです」。

 「幸いにもJBLの43シリーズは沢山売れていて商売になりそうなので、

 ワンオフではなく、ローゼンクランツのレギュラー製品として考えてみたいと思います」。

 『自分がきっかけとなって、製品が生まれるなんてのはちょっと気分いいですね・・・』。


 加工業者との打ち合わせに一苦労


 スケッチを描くのは早かったのですが、間に一業者入るせいなのか加工業者との打ち合わせがうまく進みません。直径52ミリ、厚さ3ミリのステンレスパイプを頼んだのですが、特殊だから6ミリしかないとか要領を得ないよく分からない話となって回答が返ってきます。それだけ厚みが変わると他の物との兼ね合いからしてまた新たに図面を引き直さなくてはなりません。

 もうそろそろ材料が揃ったかなと思いつつ「材料が入ったら加工の方向性をチェックしに行きますので連絡下さい」と電話を入れれば、『正式な注文を貰ってから製造に入るので2週間は掛かります』との返事。ここで初めて先方にとっては未だ注文を貰ったという意識がなかったことが判明。さらにその後貰った納期の報告の電話では、『年末で高炉の火を落としたばかりだから年明けても中旬は過ぎる』らしい。

 「何!・・・・」、もう信じられないような話の連続で言葉も出ません。

 おまけに旋盤加工屋のNCが空かないので後の工程が全部詰まってしまいます。聞くところによればこれぐらい大きい引き物業者はほとんど中国に移り、ちょっと仕事が入るとすぐに納期遅れが発生するらしい。巡り合わせの悪い時は二重三重に重なります。

 「一体いつになったら出来上がるの・・・?」。

 「年末には出来上がっていてもおかしくなかった話なのに・・・」。


 出来上がったのは節分の日


 結局出来上がったのは冬と春の季節の変わり目である節分の日でした。今回のようにかみ合いが悪い場合気に入らない事が得てして多いのですが、何と!なんと!嬉しい方に違ってくれていまして”すこぶる出来が良い”のです。ステンのヘアーライン仕上げとスパイク部の真鍮のピカピカ磨きとのコントラストが大変美しくイメージ以上でした。

 組み立ては納品当日の朝にします。クリアー塗装されたハードメイプルにその脚を取り付けてみますと一段と美しさが増します。う〜ん!、我ながら良く出来たデザインだ。メイプルボードに「RosenKranz」のネームプレートを取り付けると魂が注入されたように製品に輝きが増します。思わず頬が緩みます。

 これならローゼンクランツ番付の大関は間違い無しです。


 いざセッティングです


 Sさんよほど待ち遠しかったのでしょう、部屋はきれいに掃除されています。長くお世話になった自作のゼブラ模様スピーカーベースとも今日でお別れです。設置前にそのベースが使える物かどうか中身の構造を尋ねました。合板との間にプチルゴムを挟みそれを何層かに張り合わせた物という事が判明。スッキリさせる為にもご本人は撤去の方向での考えでしたので、同じようにこちらも対応します。

 スピーカーの振動が逆流しない為の方法として粘着物であるプチルゴムを採用したのでしょう。この方式も分からないではありませんが、いくら頑張ってみてもこの大型スピーカーが発する強力な振動エネルギーから考えるとちょっと無理があるようです。

 ローゼンクランツの振動に対する考え方は全く違っていて、スピーカーの発する振動は有り難いものという受け止め方から出発しています。その音楽振動とどう付き合うことが望ましいのか、常に良き関係でありたいと友好的な考えで対応するようにしています。これは物に対しても人に対してもいつも同じで変わることはありません。私は性善説的考えの人間なのです。


 出て来た音の第一印象は!?


 ”モノが違う!”とはこんな時の為に使う言葉なのでしょう。Sさんの発した第一声からしてそんな感想を抱かれたみたいです。色々な表現があるのでしょうが、一言でいうと楽器をイメージ出来る音です。

 音の感想や細かいニュアンスについてはSさんから後日頂けるはずですから、私が口を開けるのは敢えて控えます。今日の場合はあまりもの大手術なのでそっとしておく時間が必要です。

 それより今回のように基礎体力が上がったならどこまでスピーカーの実力を引き出せるのか、ハードルの高さを何回も上げて次世代の目標となる音の提示をさせて頂こうと思います。

 ローゼンクランツの誇る電源ケーブル、スピーカーケーブル、スピーカーアタッチメントといった最強のサポートグッズです。それらを次々に体験して頂きます。全体の振動が充分に落ち着く暇がないにもかかわらず、どこまでも受けて立ってくれる頼もしい4344Mk2がそこにはありました。





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